『西村記念館を守り伝える会』趣意書
 新宮市の名誉市民・西村伊作への関心が、ますます高まっている昨今です。
伊作が女性と男性とに分割されるような形で登場する、作家辻原登氏の「毎日新聞」への連載小説『許されざる者』が、好評裡のうちいよいよ佳境に入り、今秋まで連載が続くとのことです。また今秋より、新進気鋭の作家黒川創氏が、新潮社の季刊誌「考える人」に伊作の評伝を連載する予定とのことです。
 こういう風に、わたくしたちの偉大な先人西村伊作の評価が高まり、人々の関心を増大させていることは、嬉しく大いに誇り高いことです。伊作は、現代に置き換えると、まさに気骨あるマルチタレントでした。
 しかしながら、今、その伊作の設計による自邸、貴重な「西村記念館」が、建物そのものが存在の危機に瀕しています。
 1915(大正4)年に建てられたこの自邸は、多くの芸術家が足を運んだところで、さながら一大サロンを形成しました。その後の新宮の文化に果たした役割は計り知れないものがあります。佐藤春夫の文学が、この場所で醸成されたと言っても過言ではありません。わたくしたちに馴染みの童話『ピノキオ』がこの場所から生み出されていったことが、最近の研究で明らかにされています。
 わが国で最初の「居間式住宅」といわれるこの建物は、建築史的にも高い評価を受けており、格式ばらなくて客をもてなす様式として、まさにサロンを形成するのには最適でした。西洋の書物を取り寄せ、水回りから排水までを緻密に設計されたこの建物は、時代に先んじた、環境を配慮した建物でもあります。
 環境問題をはじめ、多くの問題が山積するこの時代にあって、現在あらためてこの建物の価値を見直し、保存のための最善の努力を続けることが、後に託するためのわたくしたちの使命であると思います。それは、喫緊を要する問題でもあります。
 幸い、行政の側でも、国の重要文化財指定を受けるための取り組みを進めているとは聞いていますが、クリアしなければならない問題が、まだ幾つか残されています。この取り組みを支援すると共に、保存のためのあらゆる努力のために、「西村記念館を守り伝える会」を結成し、広く浄財を募る運動を展開したいと思います。
 時節柄、まことに恐縮には存じますが、以上の趣旨をご理解いただき、何卒ご協力、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
                             2008(平成20)年7月
                 「西村記念館」を守り伝える会 会長 小野 俊二
                      記
募金のお願い  一口 1,000円

振込先     新宮信用金庫本店 普通1053288
        (名義)西村記念館を守り伝える会 会長 小野俊二